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恵みの水、災いの水 水共生学シリーズ
九州大学出版会 荒谷邦雄
水は生命を育み、人々の暮らしや生業を支える最も基本的な資源である。同時に、水は時間的・空間的に偏在し、時に洪水や干ばつなど、「過多と過少」による災いをもたらす存在でもある。さらに、その高い流動性ゆえに、ある主体による水利用は、時間や空間の境界を越えて他者や他地域の水利用や暮らしにも影響を及ぼす。こうした絶えず変化する「ゆらぎ」を抱えた水環境に対し、人類は古来、技術や制度、文化、信仰を育みながら適応し、水と折り合いをつけてきた。 本書『ゆらぐ水環境を生きる:恵みの水、災いの水』は、この「ゆらぎ」を抱えた水環境と人間社会との関係を、自然環境と人間社会が互いに影響を及ぼし合いながらともに変化してきた歩みとして捉え、日本、アジア、アフリカの多様な歴史と現代の現場を通して描き出す『水共生学シリーズ』の第2巻である。 本書の前半では、飲料水へのアクセスや灌漑農業を通して、水が生存と生業を支える基盤であることを示す。一方で、水資源の利用拡大は社会的対立や環境問題も生み出し、水を分かち合うための制度や協力の仕組みを必要としてきた。近世日本の治水事業、輪中で生まれた地下水の共同管理の仕組み「株井戸」、ため池や広域導水路をめぐる事例は、地域社会から国家まで、多様な主体が利害を調整しながら水を利用してきた知恵を描き出している。 さらに、水辺空間が人間活動によって絶えず姿を変えてきた過程にも目を向ける。近代港湾都市の形成や北海道開拓の歴史は、水辺が単なる自然環境ではなく、人間社会の営みによって形づくられる空間であることを示している。人間は水を制御しようとしてきたが、その「ゆらぎ」を完全に制御することはできない。気候変動のもとで激甚化する水災害や、水辺環境と深く結びついた感染症(マラリアや住血吸虫症)の脅威は、人間社会が抱える脆弱性を映し出すとともに、水と人間社会のせめぎ合いが現在も続いていることを示している。 人々は技術や制度だけによって水と向き合ってきたわけではない。野洲川流域に伝わる水神信仰や、沖縄の湧水(カー)に刻まれた「水への恩」の記憶、そして近年よみがえった地域祝祭(カーヌカミアシビ)の試みは、水を畏れ、敬い、ともに生きる文化や豊かな精神世界を育んできたことを示している。水との関係は、生活や生産を支える営みであると同時に、人々の価値観や共同体のあり方を形づくる営みでもあった。 さらに本書は、気候復元シミュレーションやテキストデータ分析、人文学的水文誌など、理学・工学・人文社会科学を横断する最新の研究手法を通して、水環境を「地球圏・生物圏・人間圏」が重なり合う場として立体的に捉え直す。水をめぐる歴史と現代を往還しながら、「水とともに生きる」とは何かを問い直し、持続可能な水共生社会の未来を考えるための新たな視座を提示する。
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[日販商品データベースより]
水は生命を育み、人々の暮らしや生業を支える最も基本的な資源である。同時に、水は時間的・空間的に偏在し、時に洪水や干ばつなど、「過多と過少」による災いをもたらす存在でもある。さらに、その高い流動性ゆえに、ある主体による水利用は、時間や空間の境界を越えて他者や他地域の水利用や暮らしにも影響を及ぼす。こうした絶えず変化する「ゆらぎ」を抱えた水環境に対し、人類は古来、技術や制度、文化、信仰を育みながら適応し、水と折り合いをつけてきた。
本書『ゆらぐ水環境を生きる:恵みの水、災いの水』は、この「ゆらぎ」を抱えた水環境と人間社会との関係を、自然環境と人間社会が互いに影響を及ぼし合いながらともに変化してきた歩みとして捉え、日本、アジア、アフリカの多様な歴史と現代の現場を通して描き出す『水共生学シリーズ』の第2巻である。
本書の前半では、飲料水へのアクセスや灌漑農業を通して、水が生存と生業を支える基盤であることを示す。一方で、水資源の利用拡大は社会的対立や環境問題も生み出し、水を分かち合うための制度や協力の仕組みを必要としてきた。近世日本の治水事業、輪中で生まれた地下水の共同管理の仕組み「株井戸」、ため池や広域導水路をめぐる事例は、地域社会から国家まで、多様な主体が利害を調整しながら水を利用してきた知恵を描き出している。
さらに、水辺空間が人間活動によって絶えず姿を変えてきた過程にも目を向ける。近代港湾都市の形成や北海道開拓の歴史は、水辺が単なる自然環境ではなく、人間社会の営みによって形づくられる空間であることを示している。人間は水を制御しようとしてきたが、その「ゆらぎ」を完全に制御することはできない。気候変動のもとで激甚化する水災害や、水辺環境と深く結びついた感染症(マラリアや住血吸虫症)の脅威は、人間社会が抱える脆弱性を映し出すとともに、水と人間社会のせめぎ合いが現在も続いていることを示している。
人々は技術や制度だけによって水と向き合ってきたわけではない。野洲川流域に伝わる水神信仰や、沖縄の湧水(カー)に刻まれた「水への恩」の記憶、そして近年よみがえった地域祝祭(カーヌカミアシビ)の試みは、水を畏れ、敬い、ともに生きる文化や豊かな精神世界を育んできたことを示している。水との関係は、生活や生産を支える営みであると同時に、人々の価値観や共同体のあり方を形づくる営みでもあった。
さらに本書は、気候復元シミュレーションやテキストデータ分析、人文学的水文誌など、理学・工学・人文社会科学を横断する最新の研究手法を通して、水環境を「地球圏・生物圏・人間圏」が重なり合う場として立体的に捉え直す。水をめぐる歴史と現代を往還しながら、「水とともに生きる」とは何かを問い直し、持続可能な水共生社会の未来を考えるための新たな視座を提示する。